20年、この仕事を続けてきました。辞めたいと思った時期が、まったくなかったわけではありません。でも、気づけばここまで来ました。

私が一番しんどかったのは、人間関係や部下の指導といったことではありませんでした。もっと根っこのところ——一人のセラピストとして関われる範囲には、どうしても限界がある、と感じたことでした。

「目の前の一人」だけでは、届かない

セラピストの仕事は、目の前の一人と深く向き合う仕事です。それ自体に、確かなやりがいがあります。でも、続けるほどに、いくつもの「限界」が見えてきました。

ひとつは、関われる範囲の限界です。リハビリで元気になって、笑顔で退院していかれた方が、しばらくして転倒を繰り返し、また入院してこられる——そんな姿を、何度も見てきました。自分が関われるのは、入院しているあいだだけ。退院した後の生活にまでは、どうしても手が届かない。良くなった人を、そのまま支え続けられないもどかしさが、ずっと心に残りました。

もうひとつは、時間の限界です。リハビリには、一人にかけられる単位数に上限があります。その限られた時間の中で、後輩の育成にも追われる。「もっと関わりたい」と思っても、一人でできることは、どんどん限られていく。

「もっと力になりたい」という気持ちが強いほど、その「届かなさ」が、続けるほどに少しずつ重く感じられるようになりました。

辞めるのではなく、関わり方を変えた

そこで私が選んだのは、辞めることでも、我慢して続けることでもありませんでした。専門職としての関わり方そのものを、変えていくことでした。

リハ職として現場で一人ひとりに関われる立場から、施設の運営を通して、より多くの人に関わる立場へ。関われる人の「分母」を、少しずつ広げにいったんです。

ただ、これはセラピストを”辞めた”わけではありません。現場で培った専門職としての視点は、持ったままです。むしろその目線があるからこそ、運営の側に回っても、利用者さんにとって何が大事かを軸に考えられる。専門職の色を残したまま、関われる範囲を広げる——そんな感覚に近いです。

運営に回れば、目の前の一人に直接関わる時間は減ります。でも、仕組みや環境を整えることで、自分が直接会えない人にも、間接的に良い時間を届けられる。これまで「個人と個人」だった関わりが、「個人から多数へ」、そしてさらに多くの人へと、少しずつ波及していく。その手応えを感じられるようになってから、また前を向けるようになりました。

関わり方を変える道は、ひとつじゃない

「関わり方を変える」と言っても、いきなり運営に回る必要はありません。リハ職が積み上げてきた専門性は、いろいろな形で広げていけます。

たとえば、後輩や学生の育成に力を入れて、自分の手が届かない現場にも、自分の考え方を残していく。あるいは、ケアマネジャーの資格を取って、リハビリの先にある生活全体に関わる。地域のなかで多職種と連携し、退院した後の暮らしを支える側に回る、という道もあります。

共通しているのは、どれも「リハ職としての視点」を土台にしている、ということです。現場で一人ひとりと向き合ってきた経験は、立場が変わっても、必ず活きてきます。

■ たこすの現場経験から

振り返ると、私が20年続けてこられたのは、強い精神力があったからではありません。むしろ逆で、「このやり方ではもう限界だ」と感じたときに、専門職としての関わり方を切り替えてこられたから、だと思います。

回復期、訪問、デイ、そして運営。傍から見れば転々としているように見えるかもしれません。でも自分の中では、セラピストの視点を持ったまま、「目の前の一人」から「もっと多くの人」へと、関わる範囲を広げてきただけでした。

たとえば、訪問リハに移ったときのことです。回復期で一緒にリハビリをして退院した方の自宅に、今度は訪問で伺う機会がありました。病院では見えなかった「その人の日常」が、そこにありました。どんな間取りで、どんな生活動線で、どこで足が止まりやすいのか。「この部分が気になっていたのか」と、退院後に初めて気づくことがある。関わる場が変わると、見える景色が変わる、と実感した場面でした。

運営に移ってからも、似たような感覚がありました。直接会える人数は減った。でも、スタッフの関わり方に少し影響を与えることで、自分では会えない利用者の日常にも何かが届く。その手応えが少しずつ積み重なるにつれ、「届ける」ことの意味が、たぶん少し広がったのだと思います。

もし今、この仕事に限界を感じている人がいたら、伝えたいです。辞めるか我慢するか、の二択じゃない。専門職の軸を持ったまま、「関わり方の形を変える」という、三つ目の道もあります。

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たこす
理学療法士・介護支援専門員。総合病院を起点に、デイサービス・訪問リハ・回復期・施設運営・エリアマネジメントと、約20年にわたりリハ職としてのキャリアを積んできました。 専門領域での偏りに悩んだ20代、役割が急に増えた30代、そして40代を迎える今も "働き方を磨き続けること" をテーマに日々試行錯誤中。 現場だけでなく、新人育成・職場の役職・施設管理者・エリアマネジメントなど "横のキャリア" にも触れてきたことで、一般的なセラピストの道とは少し違う視点を持つようになりました。 だからこそ今、キャリアに迷うあなたにとって「少し先を歩く人」として、気づきを届けられることがあると感じています。