施設運営やエリア管理に関わるようになって、数年が経ちました。振り返ってみると、管理職という立場で「活躍していく人」と「消耗してしまう人」の間には、はっきりとした違いがありました。

臨床で優秀だったセラピストが、管理職になった途端につまずくことは珍しくありません。逆に、臨床では特別目立たなかった人が、管理側に回ってから力を発揮することもあります。臨床のスキルと管理職の適性は、重なる部分はあっても、たぶん別物なんだと思います。

この記事では、施設運営とエリア管理を経験してきた立場から、「管理職・施設運営で活躍するセラピストに共通していた特徴」を4つに整理してみます。これから管理職の打診を受けそうな方や、目指すかどうか迷っている方の判断材料になれば嬉しいです。

なお、管理職になった直後に何が起きるのか――判断がすべて自分に乗ってくる感覚や、相談できる上司がいなくなる現実――については、別の記事で詳しく書いています。→ リハ職が管理職になって最初に直面したこと

管理職・施設運営で活躍するセラピストの特徴

① 「自分がやる」より「人が動ける環境を作る」に切り替えられる

これが一番大きな違いだと思います。

臨床では、自分のスキルで利用者さんに貢献します。「自分がやれること」の質を高めていくのが仕事です。でも管理職になると、「自分がやる」のではなく「スタッフが動きやすい仕組みを作る」ことが求められます。

ある若いスタッフが訪問件数をなかなか上げられずにいたとき、私は最初、「こう動けばいい」と直接アドバイスしていました。でも変わりませんでした。そこで視点を変えて、「何が障壁になっているか」を一緒に洗い出すようにしました。すると、記録に時間がかかりすぎているという課題が見えてきました。テンプレートを作って記録の負担を減らしたら、結果的に件数が上がりました。「自分が解決する」から「相手が解決できる状況を作る」への転換です。

管理職で活躍している人は、この切り替えが早いです。自分の手柄にこだわらず、スタッフの成長を自分の成果として受け取れる人です。

② 数字を「経営視点」で読める

臨床にいたころは、「稼働率」という言葉を聞いても、どこか他人事でした。でも施設運営に関わると、稼働率1%の差がスタッフの給与や施設の存続に直結することがわかってきます。

管理職で評価される人は、「数字の裏にある意味」を読めます。キャンセルが増えている月は、単にその数字を報告するのではなく、「なぜキャンセルが増えているか」を利用者さんの状態変化や家族の事情から分析して、提案までできます。

数字はコミュニケーションのツールです。それを使いこなせるかどうかが、管理職としての信頼を作っていきます。

③ 「現場の言葉」と「組織の言葉」を翻訳できる

施設運営をやって気づいたのは、現場スタッフと経営陣では「見ている時間軸」がまったく違うということです。

現場のスタッフは今日・今週の利用者さんのことを考えています。経営陣は半年後・1年後の収支や人員計画を考えています。管理職はその中間に立って、両方の言葉を翻訳しなければなりません。

「現場は人が足りなくて疲弊している」という声を経営陣に伝えるとき、ただ「人が足りない」と言っても動いてもらえないことが多いです。「現在の稼働率とスタッフの残業時間から、このペースが続くと半年以内に離職リスクが高まる。採用コストと比較すると今動く方が合理的だ」という形で伝えると、話が通りやすくなります。この「翻訳力」が高い人が、現場からも経営からも信頼を勝ち取っていきます。

④ 「正しさ」より「前進」を選べる

臨床では「正しい判断をする」ことが求められます。でも管理職の世界では、「正しい選択肢がない中でベターを選ぶ」場面が圧倒的に多いです。

人員配置の問題、スタッフ間の関係性、利用者さんのクレーム対応。どれも「これが正解」という答えがありません。100点がない中で70点の決断を繰り返していくのが管理職の仕事です。完璧を求めて動けなくなるより、不完全でも動いて修正する方が組織は前進します。曖昧さに耐えながら前に進める人が、長く活躍できます。

「現場に戻りたい」という気持ちとどう折り合うか

管理職になって何年経っても、この感覚は完全にはなくなりません。

利用者さんが「歩けた」と喜ぶ瞬間に立ち会えない。スタッフがリハビリをしている場面を見て、「あの感覚、自分にはもうないな」と思う瞬間があります。これはセラピストが管理職になる上で、避けて通れない喪失感だと思います。

私がどうやって折り合いをつけたかというと、「自分が直接関わらなくても、スタッフを通して利用者さんに貢献できている」という実感を積み重ねることでした。新人スタッフが成長して利用者さんに感謝されている場面を見たとき、自分が作った仕組みでスタッフが働きやすくなっていると感じたとき――「直接関わる喜び」とは別の充実感が、少しずつ育ってきました。

「現場に戻りたい」という気持ちは、「今の仕事が嫌だ」というサインではありません。セラピストとしての本質が生きている証拠でもあります。その感覚を持ち続けながら、管理職としての貢献を積み上げていくことが、長く続けられる道だと思います。

■ たこすの現場経験から

施設運営に関わった最初の頃、一番困ったのは「スタッフとの距離感」でした。昨日まで同僚だった人が、翌日から部下になる。相談しやすい関係を保ちたい一方で、「管理する立場」としての一定の線引きも必要になる。この距離感の調整が、想像以上に難しかったです。最初の半年は正直、どう振る舞えばいいかわからなくて、無駄に硬くなっていたと思います。

エリア管理になってから、複数拠点のスタッフと関わる機会が増えました。そこで痛感したのは、「同じ言葉でも、拠点によって受け取り方がまったく違う」ということです。ある拠点では「もっと自分で考えてほしい」というメッセージが伝わるのに、別の拠点では「突き放された」と受け取られることがありました。管理職は「何を言うか」だけでなく「誰に・どう言うか」まで考えないと、意図が伝わりません。これは現場のリハビリ技術と似ていると気づいてから、少し楽になりました。

そしてもうひとつ、数年やってみての実感があります。管理職で身につく力は、仮に現場に戻ったとしても腐りません。稼働率や人件費といった数字を読む力は、加算の仕組みや事業所の懐事情を理解するのに使えます。相手に合わせて言葉を翻訳する力は、ご家族やケアマネジャーへの説明でそのまま活きます。正解のない中で70点の決断をする力は、答えの出ない難しいケースと向き合うときの支えになります。管理職経験はセラピストとしてのキャリアを「消費する」ものではなく、「積み上げる」ものだと、今は思っています。

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たこす
理学療法士・介護支援専門員。総合病院を起点に、デイサービス・訪問リハ・回復期・施設運営・エリアマネジメントと、約20年にわたりリハ職としてのキャリアを積んできました。 専門領域での偏りに悩んだ20代、役割が急に増えた30代、そして40代を迎える今も "働き方を磨き続けること" をテーマに日々試行錯誤中。 現場だけでなく、新人育成・職場の役職・施設管理者・エリアマネジメントなど "横のキャリア" にも触れてきたことで、一般的なセラピストの道とは少し違う視点を持つようになりました。 だからこそ今、キャリアに迷うあなたにとって「少し先を歩く人」として、気づきを届けられることがあると感じています。